今ここにいる過渡的で一時的な僕…
「僕には今でも時々遠い太鼓の音が聞こえる。静かな午後に耳を澄ませると、その響きを耳の奥に感じることがある。無性にまた旅に出たくなることもある。でも僕はふとこういう風にも思う。今ここにいる過渡的で一時的な僕そのものが、僕の営みそのものが、要するに旅という行為なのではないか、と。
そして僕は何処にでも行けるし、何処にも行けないのだ。」
(村上春樹「遠い太鼓」P563-564)
僕が「旅」というキーワードが気になり始めたのは、2001年に当時友人と一緒にやっていた季刊誌[A]vol.13で、移動特集をやった時にさかのぼる。ちょうど僕が3年間のニューヨークへの「旅」を終え、その帰り道に彼女とヨーロッパを旅した頃だ。そして、東京にしばらく滞留するようになってから、僕の旅への夢想は続いている。村上春樹のこの一節は、その頃に出会った。