「HAKUHODO ART PROJECT」始動!その概要と背景について
久々のブログ更新。まずは去年から粛々と準備してきた「HAKUHODO ART PROJECT」がこの2月、ついに始動しました!
もっとも、特に社内で初めてこの話をすると「それって結局、近藤がアート好きだからやってるんでしょ?」と言われることも多いので(苦笑・たしかにアートは大好きですが、決してそれだけではないです)、このプロジェクトの概略と背景を書いてみたいと思います。長くなりましたが、読んで頂ければうれしいです。
まずはざっくりと、どんなプロジェクトかというと、
HAKUHODO ART PROJECTは、アートと企業マーケティングをつなぎ、広告を通じて文化をつくることを目的に社内の有志で始めたプロジェクトです。私たちは成熟していく日本には、芸術や文化の力が大切だと信じています。そのために従来の広告の形やメディアにとらわれず、新しい文化と市場の創出を通じ、経済と文化の持続的な発展に貢献していきたいと考えています。
第一弾として、新アートフェアTOKYO FRONTLINEと恊働で、この春、東京で目白押しのアートイベントを特集した8Pタブロイド紙「TOKYO ART MONTH」を産経エクスプレスに挟み込みで計11万部配付。六本木ヒルズや3331 ARTS CHIYODAなどイベント会場でも無料で配付中なので是非チェックを!(CD:後藤繁雄+近藤ヒデノリ AD+design:長嶋りかこ 編集:小林英治、山内真太郎)
また、ソニーの一眼デジタルカメラ'α'と、TOKYO FRONTLINEに参加するアーティストのコラボレーションによりzineを制作。写真家の鷹野隆大さん、小山泰介さん、同展オーガナイザーの後藤繁雄さんによるzineをHAKUHODO ART PROJECTのブースで展示しました(協力:博報堂ケトル)。
フェア会期中には、HAKUHODO ART PROJECTとしては初めての社外向けプレゼン(40枚程のパワポ資料もつくったので、呼んで頂ければどこででもプレゼンしに行きます)の他、伊藤直樹(W+K)、後藤繁雄さんとの「アートビジネス・カンバセーション」トークも実施。
おかげさまで、日経新聞夕刊にも掲載いただきました(感謝!)。
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そもそも、僕がこんなことを考えて動き始めたのは一昨年末頃。リーマンショックやネットメディアの隆盛によるマスコミ全体の根本的な変化の中で「広告」自体の形も変わってきていた。そんななかで、それまで個人活動として行ってきたTOKYO SOURCEや雑誌『広告』の編集委員など、社内外で培ってきたアートやカルチャーの知見を、広告会社の持つメディアや企業のネットワークとつないでいくことで、もう少し世の中を面白くすることに貢献できるのではないかと思ったのが始まりです。
そんなことを考えつつ、昨年は『広告』の「広告の終わり。広告のはじまり」という特集のなかで3331 ARTS CHIYODAの中村政人さんや小崎哲哉(REAL TOKYO)さんらと座談会をしたり、「若者特集」では1950年代以降のアート界を俯瞰するアーティストマップをつくったり、自腹でカンヌ広告祭へ行って世界の広告の流れを検証したり、アートと「広告」の接点や企業とアートのこれからの関係の可能性についていろんな人に相談してきました。
それまでも機をみては現業で試してきたのですが、当然、全てのクライアントにこういうことが必要なわけではない。むしろ、アートとかカルチャーなんてまったく必要なくて、チラシのようなCMを作った方がいい場合の方が多いかもしれない。でも、日本でも有数の広告会社として、単に企業の利益パートナーとなるだけでなく、成熟に向かう日本を豊かにするために、何かできることがあるのではないか。バブル期の一方的なメセナとは違う、「文化」と「経済」の持続的発展の形があるのではないか。そんなことをずっと考えてきました。そして、小さくても「旗」を掲げることで、少しでも動きを加速させていきたいと思ってきました。
とにかく今、広告コミュニケーションの形は確実に変わり始めています。BIGからSMALLへ。従来のマスコミを中心とした「バブル」は確実に終りつつある。もちろん、それは単純にTVCMが効かないというわけではなく(今でもリーチメディアとして強力なことは間違いない)、企業がマスメディアを通じて一方的に情報を伝えるというマスコミ「万能」時代が終わりつつあるということ。マスを対象にした「売れ線」だけを垂れ流す時代は確実に終わり、細分化されたビオトープに向けた効果的なコミュニケーションがが大事になってきている。
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それらはもはや、いわゆる広告の形をしていなかったりします。広告というよりサービスプラットフォームだったり、企業と生活者が一緒につくる「プロジェクト」と呼んだ方がいいかもしれない。要は、リアルであれウェブ上であれ、いかにバプリックな場で人にすごい体験をもたらせるか、その「創造力」が問われ始めている。それを示すかのようにカンヌ国際広告祭は今年から、その名称から「広告」を抜き「International Festival of Creativity」に変更しました。
こうした流れは、アート界で主流となりつつある「インスタレーション(空間として体験するアート)」や、鑑賞者の参加によって成立する「プロジェクト型アート」の隆盛とも重なるし、遡れば、昨年水戸芸術館でも回顧展が開催されたアーティスト、ヨーゼフ・ボイスの言葉「我々、人間の創造力、想像性、そうしたものこそが唯一の資本であるということが明らかになる日が来ると思います」「すべての人間が芸術家である」という言葉を思い出します。ひょっとすると、今という時代はボイスが提唱していた「社会彫刻」が現実になりつつある時代なのではないかという気がしています。
BEUYS IN JAPAN ヨーゼフ・ボイス よみがえる革命
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日本の現代アート状況も、歴史がない、マーケットがない、見る人もいない「悪い場所」と言われていたのが、近年かなり変わってきていると思います。六本木アートナイトには一晩で70万人以上が訪れ、瀬戸内の離島で開催された現代アート展に100万人近くの人が訪れる。BRUTUSのアート特集が売れ筋だったりと、現代アートを見る人は確実に増えている。先の『広告』で行った座談会でも、そんな状況を指して「Jリーグ前の日本サッカーの状況に近いかも」という声もありました。良質なアートは人を呼べる。六本木アートナイトや瀬戸内国際芸術祭は、六本木や瀬戸内海という場所の強力な「広告」だと思います。
そもそも、茶の湯、襖絵、用の美…日本における「アート」は常に生活のそばにあったわけです。そんな国だからこそ、アートの魅力をより多くの人に伝え、生活に近づけ、社会化していくために、広告サイドからもできることがあると思っています。企業にとっても、単に商品情報を伝えるのではなく、そのまわりに文化をつくっていくことで新しい市場が生まれ、ブランドが長期的に愛されていく。また、バブル時代のように利益の社会還元として既存の文化に一方的にお金を出すのではなく、同時代の多様な価値観をもつアーティストたちと共に文化をつくっていくことが、企業文化にもダイナミズムを生み、活気と利益を生み出すのだと思います。
そんなわけで、HAKUHODO ART PROJECTでは、広告会社のもつメディアや企業とのネットワークと、広告制作で培った発想力を生かし、アートと企業マーケティングの接点をさぐりながら新しい「広告」をつくっていきたいと思っています。メディア&メソッド・ニュートラル(既存の広告手法やメディアにとらわれない)&キュレーション(広義の編集)を通じて、広告界だけではできないこと、アート界だけではできないことを、どんどんやっていきたい。それによって「広告」も「アート」も拡張され、日本がより豊かで、面白い国になっていけば最高です。
「経済は文化の下僕である」
という福武總一郎(ベネッセホールディンクス取締役会長)さんの言葉に僕は深く共感しています。企業である以上、利益を出さなくてはいけないのは当たり前ですが、目先の利益だけを求める企業ばかりでは、ギスギスして均一化したつまらない社会になってしまう。地球環境にも悪い。そもそも、企業の存在理由は社員を含め、人や社会の幸福のためにあるのだと思うし、大きな影響力をもつ存在だからこそ、この言葉のもつ意味が重要になってきていると思います。
…なんだか熱く、長くなってしまいましたが、HAKUHODO ART PROJECTはまだ始まったばかり。今も次の企画実現に向けてガシガシ動いている真っ最中なので、追ってまたご報告できれば幸いです。見当違いな点、足りない点も多々あるとは思いますが、走りながら考え、常にバージョンアップしていければと思っています。
志は高く、丁寧に、粘り強くやっていくつもりなので、よろしくお願いします(共感頂ける企業、団体、アーティストの方いらしたらドシドシご連絡ください)!
最後に、「じゃぁ、アートって何?」と言い出すと、人によってその定義は千差万別ですが、僕はアートとは、新しいものの見方の体験だと思っています。しかも、根本的な新しい世界の見方の体験。だから、よく「アートはよくわからない」と言われるのも当たり前なのかもしれません(現代アートが細分化した文脈の上に成り立っているという理由もありますが)。でも、それは時に人の人生を変えるような体験を生み出す力がある。僕も休職してNYに写真をやりに留学していたときに、現地で現代アートに出会って人生が変わってしまった一人です。誰にでも必要なものではないかもしれないけど、人が楽しく豊かに生きていくために、社会に多様性をもたらすために、アートはなくてはならないものだと思っています。